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2024/11/21

离 苏德


『离』 苏德

推薦文に、张悦然が「她也是难得的做了丰感情感叙述却不煽情的作者。」と寄せているのですが、私も同感。
ドラマチックで悲劇的な生い立ちを背負った主人公というのは、時代や世代を問わず「あるある」な物語設定ですが、そこを大げさにアピールしない、静かな文章がとてもいいです。

石庙向导という名のバーに集う人々。国籍や世代を超えて、そこにいる誰もが孤独や哀しみを心に秘めつつ、ゆるやかにつながっている。語り手の兰、彼女と同じように、店にふらりとやってきて長逗留をはじめた赤いブーツの曼底、彼女の手紙に隠された謎。兰自身がとらわれている過去。じわりじわりと話が進み、最後に「ああ…」と、それぞれの謎が読者に静かに示される。

石庙向导に似たバーに足を運んだ経験がある旅行者は少なくないでしょう。旅の目的地を見失った人々、どこへも行けない人々、お酒と場所の力を借りて一時的な楽しみに没頭する人たち。退廃的で、それなのにどこかあたたかい。「知っている場所だ」と強く感じました。そこに集う物語の中の誰もがとても近しく思えました。

結末は読者にゆだねられています。私はそこに希望を見ましたが、読む人それぞれに違うエンディングがありそうです。


著者の苏德は、先日東アジア文学フォーラムのメンバーとして来日しました。若手の作家として、インタビューなど発言の機会も多かったようです。シンポジウムの終了後に声をかけたところ、気さくに応じてくれました。
おしゃれなのに気取りのない、素敵な女性でした。
持参したこの『离』にサインもしてもらって、嬉しい一日でした。

エマーソンの夜
エマーソンの夜
このフォーラム参加者の自選作品集が刊行されています。各作品が分冊となっていて、興味のある作品から1作ずつ購入できるという斬新なシステムです。
苏德の「エマーソンの夜」、まず中国語の原作《威马逊之夜》から読んでみました。
台風の夜。風と雨が次第に強くなる窓の外とは対照的に、ひそやかに語る女と耳を傾ける相手。朗読される手紙、次第に明らかになっていく過去。

手紙が物語の重要な鍵となっているところ、最後に謎が明かされ、あああれはそういうことだったのかとハッとさせられるところが、『离』との共通点です。
風雨の音、音楽、体温、肌と肌のふれあい、五感を総動員させてじっくりと読みたくなる、映画のような小説でした。



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2010/12/24 その他 Trackback() Comment(0)

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